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乳糖不耐症

ミルクや乳製品が好きなら、ラクターゼ遺伝子に多型があって幸運だと思ってください。この多型をもつおかげで、ミルクや乳製品を、膨満感、けいれん、下痢を伴わずに食べることができるのです。

deCODEmeで乳糖不耐症の遺伝リスクを算出できます。

検査結果レポートのデモ


成人の乳糖を消化する能力はメンデルの優性形質として遺伝します。これは、環境要因による影響がほとんど全くなく、遺伝要因によって決まる能力であることを意味しています。

乳糖不耐症は、ミルクアレルギーと同じではありません。

乳糖不耐症は、アレルギーではないので、免疫系は関与していません。そのため、乳製品を完全に避けなければならないわけではありません。

乳糖寛容(「ラクターゼ活性持続症」と呼ばれることもあります。大人になっても、上述した症状を経験せずに乳製品を消化できる能力のことです)は、哺乳類に独特の性質で、ヒトにおいては比較的新しい形質です。そう聞くと、驚かれる人も多いでしょう。

乳糖寛容の歴史は興味深いものです。乳糖寛容にはゲノム塩基配列の多型が関わっており、この多型は、正の自然選択によって、ヒト集団内およびヒト集団間に広まっていきました。この多型をもつ人は、生存や繁殖に有利であったためだと考えられています。

乳糖は、ミルクや乳製品に含まれる天然糖で、消化管の細胞が作り出すラクターゼという酵素によって分解されます。出生時には、全ての哺乳類が、この酵素ラクターゼを作り出すので、膨満感、けいれん、下痢を経験せずに、母乳を飲むことができます。しかし、離乳後に、哺乳類の幼児の体内では、ラクターゼの合成が止まり、生肉、草、その他のおいしい食物など、成体向きの食事に備えるようになります。

最初は、人間全てがこのような経過をたどっていました。しかし、数千年前に、人間の祖先の1人のラクターゼ遺伝子に変異が起こり、彼(あるいは彼女)は、成人期でも乳製品に含まれる乳糖を消化し続けることができるようになりました。これが、「ラクターゼ活性持続症」と呼ばれることがある理由です。この先祖が誰であったかはわかりませんが、ヨーロッパのどこかに住んでいて、ミルクをつくる動物を飼っている小集団に属していた可能性があると考えられています。

成人期にもラクターゼを合成しつづけられると、おそらく、乳畜を飼っている小集団では、家畜のミルクを人間のための豊富で安定した栄養や水分供給源にできるため、生存に非常に有利になったことでしょう。乳畜を飼っている小集団の、この多型をもたない人は、特に、栄養源として乳製品しかなかった場合に、相対的に不利であったと考えられます。その結果、この多型は、急速に北欧や世界の他の地域に広まり、ウシやヤギのような家畜が生活に取り入れられている多くの集団では、正の自然選択によって、高頻度にみられるようになりました。

乳糖不耐症のみられる頻度は、北欧の2~5%から、アジア、南アフリカ、南米の最大ほぼ100%まで、幅があります。北米、北アフリカは、この中間の頻度です。およそ3,000万~5,000万人の米国成人が乳糖不耐症であると考えられています。

BIV-deCODEmeでは、2番染色体のラクターゼ遺伝子(LCT)近傍の多型(SNP)を調べ、それに基づき、乳糖不耐症の遺伝的リスクを計算します。

リスク要因

  • 年齢:乳糖不耐症は、生涯のうちのいつでも発症することがあります。ヨーロッパ系の人では、通常、5歳以上にみられます。アフリカ系米国人では、早い場合は2歳でみられることもあります。この酵素の合成は、妊娠末期に始まるので、未熟児で生まれた子は、ラクターゼ量が低下している可能性があります。
  • 人種:乳糖不耐症の発症率は人種による差が非常に大きいことがわかっています。アジア人の95%、アフリカ系米国人とアシュケナージ系ユダヤ人の60~80%、米国先住民の80~100%、スペイン系の人の50~80%に乳糖不耐症がみられます。北欧に起源をもつ人では、非常に稀です(2~5%)。
  • 遺伝要因:成人の乳糖消化能はメンデルの優性形質として遺伝します。これは、環境要因による影響が、ほとんど、あるいは全くなく、主に遺伝要因によって決まることを意味しています。
    ラクターゼ遺伝子近傍の塩基配列(SNP)の違いにより、「ラクターゼ活性持続」であるか、「乳糖不耐症」であるかが決まります。つまり、ゲノムのこの塩基配列によって、成人期に、ラクターゼの合成を制御する遺伝子の発現がオンになったり、オフになったりしているのです。そのため、この塩基配列の遺伝子型を調べると、乳糖不耐症であるか否かを高い確率で予測することができるのです。
    ただし、成人期の乳糖消化能に関わる塩基配列をもっていることがわかっても、この他に、ミルクに対する感受性、すなわちアレルギー反応を起こすような塩基配列をもっている可能性もありますので、ご注意ください。
    また、人種によっては、ここで報告された塩基配列がラクターゼ活性持続を説明できない場合もありますので、ご注意ください。特に、サハラ以南のアフリカに祖先の起源がある人の場合がそうです。現在明らかになってはいませんが、サハラ以南のアフリカでは、他の塩基配列がラクターゼ活性持続の原因であると考えられています。

予防

成人期に乳糖不耐症であるか、あるいはラクターゼ活性持続であるかは、体がラクターゼを合成できるかどうかに完全に依存しています。ラクターゼ合成能は遺伝的に決まるものです。成人期のラクターゼ合成能が食事や生活習慣の影響を受けるという科学的証拠はありません。例えば、長い間完全にミルクを避けていたとしても、ラクターゼの合成量を変化させることはできません。

しかし、食事から乳製品を取り除くと、通常、乳糖不耐症の症状は改善されます。発酵あるいは加工処理した乳製品(ヨーグルトや固形チーズなど)は、相対的に含有乳糖量が少なく、また、発酵製品はラクターゼを合成する乳酸菌の一種(ラクトバチルス・アシドフィルス)を含んでいることもあります。そのため、他の乳製品と比べて、このような乳製品は乳糖不耐症の人に、不快な症状を引き起こすことが少ないのです。乳糖不耐症の人が乳製品を摂取しない場合には、カルシウムの豊富な食物やビタミンDを食事に補って、健康的な骨量を維持するようにしていかなくてはなりません。

乳糖不耐症は、ミルクアレルギーと同じではないことに注意してください。乳糖不耐症は、アレルギーではなく、免疫系は関与していません。そのため、乳製品を完全に避けなければならないわけではありません。

専門分野の参考文献

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